【はじめに】知らなかった私
2年ほど前のことです。
ふと「山登りでもしてみようかな」と思い立ち、車で出かけました。
ちょうど、歩き遍路を始めたいと考えていた頃。
そのための体力づくりとして、“軽い気持ちの山歩き”を思いついたのです。
行き先は「県立自然公園」。
「公園」と名がつくくらいだから、まぁ安全だろう──と、
靴はスニーカー、リュックは娘の通学用という、まさになめた装備で出発しました。
※「県立自然公園」とは、国や県が指定し、自然や景観を保護することを目的とした特定の地域のこと。
とはいえ「公園」といっても、整備された遊歩道があるとは限らず、
手つかずの自然がそのまま残っている場所も多くあります。
例えば、西日本最高峰・石鎚山(天狗岳)の周辺も石鎚国定公園に指定されていますが、
登山には知識と経験が必要な上級者向けのルートです。「公園=安心」というイメージで、無防備に山に入るのは本当に危険です。
今思えば──
あの時の私を、誰か止めてほしかった…!
【現地で起こったこと】泣きそうな初登山
このとき訪れたのは、登山をする人の間では比較的「登りやすい」とされている、人気の山でした。
山頂付近まで車で行けることや、レストランや温泉付きの宿泊施設、キャンプ場なども整っていて、登山だけでなくアウトドアやレジャーとしても楽しめる場所です。
宿泊施設のスタッフさんにも、「このルートは歩きやすいですよ」と教えてもらい、
私はその言葉を頼りに、“散歩がてら”軽い気持ちで歩き始めました。

ここは修行の山でした。八十八か所霊場のお寺とはずいぶん離れた場所にあるのですが、弘法大師様が修行をされたという「弘法大師御影堂」もあります。修行の山であったことの証として「鎖場」が残っています。(私は階段を使いましたよ) 初心者向けとはいえこのようなルートですから…。階段と呼ぶべきか、梯子と呼ぶべきか悩む…。
しかし──すぐに現実の厳しさを思い知ります。
まず、靴。登山靴ではなくスニーカーだったので、落ち葉や湿った草で足元が滑りやすく、何度も転びそうになりました。
さらに、リュック。
娘の通学用をそのまま代用したため、荷物の出し入れはしにくいし、肩ひもだけの設計なので重さが一点に集中して肩が痛くなってくる…。
「ただ背負えて入ればいい」と思っていたけど、それは大きな間違いでした。
歩くペースも分からず、登り道をハイスピードで進んでしまい、すぐに息が切れて立ち止まるはめに。
すれ違う登山者の皆さんは、ゆっくり、でも確実な足取りで登っていきます。
その姿を見て、「あれが“登山”ってことか」と初めて気づいた気がしました。
そして何より怖かったのが、道が分からなくなったときです。
配布されていたガイドマップには、確かに“その場所”がルートとして描かれていました。
でも、私の目には、どう見ても道に見えない。
一歩足を踏み入れようとすると、ズルズル…と足元が崩れる。
「これは進んだら滑落するかも…」という恐怖がこみあげてきて、
結局、その場で引き返すことにしました。

ここは道しるべもあり比較的わかりやすい分岐点なのですが、それでも「道は?」と初心者は戸惑います。
わずか1時間半の山歩き。
けれど、その時感じた心細さと不安は、今でも忘れられません。
「自然をなめてた」──
まさにそのひと言に尽きる、泣きそうな初登山体験でした。
登山は“教わって”楽しむもの
怖い思いをした登山体験をFacebookに投稿したところ、登山経験者のフォロワーさんたちから、さまざまなアドバイスをいただきました。
「初心者コースといえど、最初は登山に慣れている人と一緒に行くのが安心だよ」
「モンベルなどのアウトドアショップでは、初心者や子ども向けの登山教室も開催しているよ」
──そんな情報、当時の私はまったく知りませんでした。
「教わりながら上達していく」方法があることすら、思いつかなかったのです。
装備は“命を守るアイテム”
登山用の靴やウェアは値段が高くて、最初は「できるだけ安く済ませたい」と思っていました。
でもそれは、大きな間違いでした。
登山ウェアは、通気性や速乾性に優れた素材でできていて、汗をかいても体が冷えないよう工夫されています。
また、“レイヤード(重ね着)”で寒暖差に対応するなど、機能性が重視されているのです。
すべての装備を専用ブランドで揃えるのは難しくても、靴だけは最優先で手に入れるべきだと気づきました。
歩き遍路では山道を通る場面も多く、長距離を安全に歩くには、靴が命を守るアイテムになると実感したのです。
私はその後、Amazonや楽天のセールで評価の高い登山靴を購入しました。
「装備は、自分への思いやり」──そう思えるようになったのも、この体験のおかげです。
負けず嫌い、再燃
普通なら「もう山はこりごり」と思ってもおかしくないところですが、
私の中の“謎の負けず嫌い”に火がつきました。
「1000メートルくらいの低山なら、登れるようになりたい」
そう思ったのは、歩き遍路の難所として知られる「焼山寺道」に挑戦したい気持ちがあったからです。
四国八十八か所霊場・第12番札所。
“最初にして最大の遍路転がし”と呼ばれる、片道4〜6時間の山道です。
ここを歩いて超えられるかどうかが、歩き遍路を続けるか、公共交通に切り替えるかの“分岐点”とも言われています。
どうしてもここを、自分の足で踏破したかった。
そうして私は、生活の中に**「遍路トレーニング(遍トレ)」**として低山ハイクを取り入れるようになりました。

初期の歩き遍路の荷物。娘からのおさがりリュックをまだ使っていた頃。今は一つのリュックにまとめていますが、当時は肩掛けバックもあった。
その一環で歩き始めたのが、愛媛県の第60番札所・横峰寺への道「横峰寺道」です。
桜の咲くころに登るのが習慣となり、今年で3回目。
この道は、信仰と自然が今でもつながっていると感じさせてくれる、美しく厳かな道です。
“遍路道”という文化の深さに、毎回心を打たれます。
参拝の道としてだけではなく、ハイキングにもぴったり。登り1時間~1時間半、下り1時間。往復約2時間半ほどの道のりです。

始まりは、無防備な一歩だった
あのとき、「もう山は無理」とあきらめていたら、今の私はいません。
無防備な格好で、無謀な挑戦をしたことは、確かに大きな反省です。
でも、大けがをせず、行方不明にもならず、こうして笑って記事にできていること。
その後、登山について親切に教えてくれた人がいたこと。
そして今も、歩き遍路とハイキングを続けられる健康があること。
──すべてに「運の良さ」と「ご縁」に感謝しています。
体験して、失敗して、気づいたからこそ。
今の私がいます。
あれが、私の“はじまりの一歩”でした。
横峰寺のある愛媛県西条市には日本百名山の一つ、そして西日本最高峰の石鎚山があります。
ハイキングとして手軽に取り組めるのがこの横峰寺道です。(それでもストックや防寒着、ちょっとした軽食などは持っていた方がいいですし、トレッキングシューズは必須です)

YAMAPという登山用のアプリを使用して行動を記録しておくとアプリで消費カロリーも計算できるし、登山計画書の作成、登山保険加入もできて登山に必要な情報もたくさん手に入ります。GPS機能もあり、遭難などのリスク対策もできます。


お寺から500メートルほど離れたところにある史跡「星ノ森」
弘法大師様が修行をされていた場所。ここから西日本最高峰の石鎚山が綺麗に見えます。
4月ですがまだ雪の残る石鎚山。ダイエット度外視で気持ちのいい一日を過ごすことができました。

登山口の湯波休憩所の桜。桜の時期に来ることができてラッキーです。去年は全然咲いてませんでした。
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